風邪を引いた時には③ 風邪のニセモノpart2.

ある男性25歳です。喉が痛くて、熱があると言うので、来院されました。よく話を聴くと、痛くてご飯も喉を通らないというではないですか。

 

咽頭を観察すると、激しく腫れ上がった左右の扁桃をみとめ、表面は白苔とよばれるカスで覆われていました。検査をお勧めすると、風邪で検査をするなんてお金もかかるだろうと激しく激怒されました。早く薬をよこせと迫って参ります。

 

 

調べたい病気について説明の時間をもうけて、説得致しました。迅速の溶連菌の綿棒を擦り付けると見事に陽性。

 

最終診断は溶連菌という細菌をやっつける抗生剤の内服薬が治療に必要な溶連菌感染症でした。

 

 

喉が痛い、発熱ときたら感冒症候群である事が多いです。しかしながら、中には治療介入が必要な咽頭痛があります。

例えば、扁桃周囲膿瘍という膿のカタマリができる病気なども、激しい喉の痛みで来院されますが、放置すると縦隔膿瘍という胸の中にドロドロに膿がたまる病気に進展して死に至ることも、少なくありません。

 

では咽頭痛があったら、みんながこうした疾患の徹底精査を必要とするかというと、これまた現実的ではありません。

 

危ないサインは激しい首の痛み。特に、物が痛くて飲み込めない場合は感冒以外の重篤な疾患を詳しく調べますので、ぜひ医療機関を受診して下さい

 

危ない咽頭痛の見分け方

   食べ物や飲み物が飲み込めないほどの咽頭の激痛は、多くの致死的疾患の除外手続きとしての診察が必要である!

 

 

風邪を引いた時には ② 風邪のニセモノpart1.

ある日、私の外来を訪れた女性です。風邪と言って入室してきました。頭が割れるようにいたいし、お熱が高いというのです。

 

早く痛みをとってと、鎮痛薬を希望して、こちらが検査と話すと面倒臭いし、金がかかると怪訝な顔をされます。

 

しかし、その方は首の後ろの突っ張った感じが感じられるというので、私は髄膜炎という稀ながら重篤な脳周囲の液体である脊髄液に感染が起きる病気を強く疑いました。

 

説得のすえに、背中に麻酔をかけながら、太い針を突き立てて行う、脊髄液の抽出検査(腰椎穿刺)を行い、重篤感染症である髄膜炎の診断となりました。

 

髄膜炎は致死率が高い病気です。あのまま、家に帰ったら亡くなっていたかも知れません。

 

 

 

  通常の発熱も頭痛が伴います。だから、頭が痛い発熱だけでこの稀な疾患をひどく心配する必要はありません。

 

  しかし、髄膜炎という感染では首が硬くてつっぱる感覚(項部硬直と専門家では呼びます)が出現します。これは炎症を起こすと髄膜の小さな動きで激しい頭痛が誘発されるために、首の動きが制限されます。これを髄膜刺激症状と呼びます。中には刺激兆候がほとんどない髄膜炎も存在しており、厳密なうえでの診断は難しいものです。

 

しかしながら、髄膜刺激兆候と症状が派手で、頭痛のあまり嘔吐を繰り返すようでは、この危ない髄膜炎を疑うべきです。ぜひ、医療機関を受診して、腰椎穿刺を含めた検査の相談しましょう。

 

 

ポイント  怖い頭痛の見分け方

  首が曲げられない、吐き気が止まらないほどの激しい頭痛を伴う発熱は髄膜炎の可能性がある。解熱鎮痛剤を飲むだけではなく、医師の診察を受けて危険な感染症の除外をしてもらいましょう!

 

 

 

 

風邪を引いた時には ①風邪とはなんだ?

風邪がとても流行する。これは冬場の常です。


しかし、風邪というのはどんなものなのかを正確に説明できる市民はまずいません。医師向けの書籍でも風邪の見方についての書籍が販売されているくらい。診察には知識が必要です。


風邪は正確には感冒症候群と呼びます。原因はウイルスです。上気道感染症を起こすので、口、喉、鼻と複数臓器にウイルス感染症を起こします。

3大症状は総合感冒薬のCMでもお馴染み、

発熱、咽頭痛、鼻汁です。


これが全て揃っているというのは、実は上気道に広くウイルス感染を起こした症状を示しているのでした。これらが揃うと我々医師は感冒と確定診断します。


一方で、発熱や咽頭痛のみを起こす病気は重篤なものを含めて、非常に多岐に渡ります。患者は熱だけがあるから風邪だとか、鼻水だけが出るから風邪だとか言ってきますが、ことごとく間違いである事があります。


あなたが思う風邪は我々から見たら決して風邪では無いのです。


正しい医学との関わり方とは? ~ メディアは極端な情報ばかり流している ~

正しい医学との関わり方とは?

~ メディアは極端な情報ばかり流している ~

 

 私は現役の医師ですが、医師になるための医学の勉強を始める前は1市民でしたから。熱が出たり、お腹が痛いと病院にとりあえず近くのクリニックに行って診察を受けました。

 今はイチ医師となり、世の中の人がどのくらい医学のことがわかっていないのか、そしてTV・雑誌といったメディアではどのくらい滅茶苦茶な内容が流れているのか、そのどちらも理解できるようになりました.

 

 基本的にメディアに流布されている情報には嘘くさい健康食品をはじめとした様々な利権が関わっていますので、専門家から見れば極端な内容ばかり紹介されています.中には稀に、市民に健康情報を提供する目的で過不足ない良質なコンテンツもありますが、そのほとんどは極端で突飛な内容です.

 

 患者さんから「昨日テレビでやっていたのだけど…」質問される際に説明する方法として「極端な3段論法」の話をします.

 

  たとえば、こんな場合を考えてみましょう

「①お母さんが太郎にご飯ができると、ご飯ができたわよ、といつも声をかけてくれます」

「②太郎はある日、その声にビックリして手に持っていたプリンを床に落として悲しくて泣いてしまいました」

「③したがって、お母さんは2度と太郎に話しかけてはいけません」

これをみて、大概の方は論理が滅茶苦茶だと気が付くのではないでしょうか?問題解決のアプローチが②から③へかけて論理の飛躍が過ぎるからです.

 

 

例えばメディアではこんな構成で紹介されます

「①体のだるさと咳を5ヶ月前から訴えていたが、近医ではカゼと言われていた」

「②ある日、実はその原因が○○という重篤な呼吸器疾患であることが判明した」

「③だるさと咳があれば○○という病気を疑って、病院へと行きなさい」

という展開が紹介され、視聴者の不安を無駄に煽るわけです.例えば、実臨床の医師は体の症状や採血結果から、その確定診断に至るまで数十の疾患群を想定し、違いそうなものを頭のリストから除外したり、新たに別の疾患を疑ったりを繰り返しながら、緻密な思考で診断へと至るわけですが、バラエティではその過程はスッポ抜けている訳です.

 ①→②の過程はただの事実ですから、いくら専門家であっても正しいと言わざるをえません.そこで、○○学教授をスタジオに呼んで、①→②は正しいですよね?と聞くわけです.

当然、教授は「正しいです」と答えるわけです.

すると、②→③はどうでしょうか?と聞くわけです.

教授は完全な嘘ではないが、本当に稀なケースだなあと思うので「まあ、そういうこともあるかもしれません…」と弱弱しく答えるのですが、メディアは数字が欲しいのでわかりやすくするために、"①→③の教授も教える3段論法"として紹介してしまうのです.

 

 

最近はTVを中心に芸能人の 健康ドッグといった企画も最近多いですが、これも実に倫理に反しています.各種スクリーニング検査をして、見つけた疾患を面白、可笑しく芸能人が発表して、患者である芸能人を指差さして罵ったり、または、病気が見つかり悲しむ本人を特集という形でさらし者にして"お涙頂戴"的なコンテンツとして扱うのは私からしたら理解しがたい行為です.

 

しかし一方で、実際に医学に関する情報収取をしたくとも正しい情報を得られなくて困っている市民の方は多いはずです.

 

 私は多くの方が適切な診療を受けるためにどうしたら良いだろうかと一生懸命考えました.1つは優秀な後輩医師の育成だと思いました.患者に寄り添い、知識が豊富な良い医師が育てばきっと患者さんに還元されるはず.こうして私は現在も少ない収入になるにも関わらず教育認定施設である大学病院に残り、研修医をはじめ後輩医師の教育を努めるほか、研修医や看護師といった医療者向けの専門雑誌での連載執筆を正直、多忙な臨床業務や動物研究の合間に参りました.

 

 それでも、やはり患者さんに直接声が届く場を改めて作りたい.そんな思いから、このブログを立ち上げました.ちょっとした症状があった時に、健診で引っかかった時に、このブログが良質な健康情報の提供の場となりますように.

 

~ 少しずつでも、あなたの健康に寄り添えますように ~

HIRO教授